ベンチャー企業のM&A事例について成功・失敗の両面から解説

ベンチャー企業のM&Aとは、新興企業が自社の株式や事業を他の企業に売却することです。

M&Aによって、ベンチャー企業は資金調達や事業拡大、イグジット(投資回収)などの目的を達成することができます。

しかし、M&Aには成功するためのポイントや失敗するリスクもあります。

この記事では、ベンチャー企業のM&Aについて、以下の内容を解説します。

  • ベンチャー企業のM&Aの市場動向
  • ベンチャー企業のM&Aのメリットとデメリット
  • ベンチャー企業のM&Aの成功事例と失敗事例
  • ベンチャー企業のM&Aの買収額の決め方
  • ベンチャー企業のM&Aを成功させる秘訣

ベンチャー企業のM&Aの市場動向

近年、ベンチャー企業のM&Aは増加傾向にあります。

特に、大企業がベンチャー企業を買収するケースや、ベンチャー企業同士が合併するケースが多く見られます。

これは、以下のような理由によるものです。

  • 大企業は、ベンチャー企業の持つ革新的な技術やサービスを取り込むことで、自社の競争力を高めたり、新たな市場に参入したりすることができます。
  • ベンチャー企業は、大企業からの買収で資金や経営資源を得たり、他のベンチャー企業と合併することでシナジー効果を発揮したりすることができます。
  • ベンチャー企業は、IPO(新規株式公開)よりもM&Aを選ぶことで、短期間でイグジット(投資回収)することができます。

また、コロナ禍においても、ベンチャー企業のM&Aは活発化しています。

特に、オンラインやデジタル領域で優位性を持つベンチャー企業は、需要が高まる中で買収対象として注目されています。

ベンチャー企業がM&Aを行うことには、メリットとデメリットがあります。それぞれを以下に示します。

ベンチャー企業のM&のメリット

資金調達

ベンチャー企業は、自社の株式や事業を売却することで大きな資金を得ることができます。

これにより、新たな事業展開や投資活動などに活用することができます。

事業拡大

ベンチャー企業は、買収先や合併先から得られる顧客や市場シェア、技術や人材などを利用することで、自社の事業規模や競争力を拡大することができます。

イグジット

ベンチャー企業は、M&Aによって自社の株式や事業の価値を現金化することで、イグジット(投資回収)することができます。

これにより、起業家や投資家は自身の努力やリスクを報われることができます。

 

ベンチャー企業のM&のデメリット

経営権の喪失

ベンチャー企業は、M&Aによって自社の経営権を買収先や合併先に譲渡することになります。

これにより、自社の事業方針やビジョンに影響を受ける可能性があります。

文化の衝突

ベンチャー企業は、買収先や合併先との間に組織文化や価値観の違いがある場合があります。

これにより、コミュニケーションや協力などに障害が生じる可能性があります。

買収額の不満

ベンチャー企業は、M&Aの際に自社の株式や事業の買収額を決める必要があります。

しかし、買収額は市場環境や交渉力などに左右されるため、自社の評価に見合った金額にならない場合があります。

 

ベンチャー企業のM&の成功事例

ベンチャー企業のM&Aは成功する場合もあれば失敗する場合もあります。

ここでは、それぞれの事例を紹介します。

メルカリとソウゾウ

2014年にフリマアプリ「メルカリ」を運営するメルカリが、デザイン制作会社「ソウゾウ」を買収しました。

このM&Aによって、メルカリはソウゾウのデザイン力や人材を活用してサービスの品質向上や新規事業開発を行うことができました。

また、ソウゾウはメルカリの成長力や資金力を得て自社の事業拡大を図ることができました。

ラクスルとピクスタ

2018年に印刷通販サービス「ラクスル」を運営するラクスルが、写真素材販売サービス「ピクスタ」を買収しました。

このM&Aによって、ラクスルはピクスタの写真素材を自社サービスに組み込むことで付加価値を高めるとともに、ピクスタの海外展開ノウハウを活用して自社のグローバル化を加速させることができました。

また、ピクスタはラクスルの印刷技術やマーケティング力を得て自社の事業強化を行うことができました。

ペイペイとオリジン東秀

2020年にQRコード決済サービス「PayPay」を運営するペイペイが、弁当チェーン「オリジン弁当」を運営するオリジン東秀を買収しました。

このM&Aによって、ペイペイはオリジン東秀の店舗ネットワークやブランド力を活用して自社サービスの普及を促進するとともに、オリジン東秀のデジタル化やオムニチャネル化を支援することができました。

また、オリジン東秀はペイペイの決済技術やデータ分析力を得て自社の事業改善を行うことができました。

ベンチャー企業のM&の失敗事例

ライブドアとニッポン放送

2005年にインターネット企業「ライブドア」が、ラジオ放送会社「ニッポン放送」の株式を買い占めて経営権を握ろうとした事件です。

このM&Aは、ライブドアがニッポン放送の親会社であるフジサンケイグループに対する敵対的買収として批判され、最終的にはライブドアの粉飾決算が発覚して両社ともに株価暴落や経営危機に陥りました。

ディー・エヌ・エーとグリー

2011年にソーシャルゲーム企業「ディー・エヌ・エー(DeNA)」が、同業の「グリー」の株式を買収しました。

このM&Aは、両社が協力してソーシャルゲーム市場を牽引するという目的で行われましたが、実際には両社の文化や戦略の違いから協調関係が築けず、市場の変化にも対応できませんでした。

その結果、両社はスマートフォンゲーム市場で後れを取り、株価も低迷しました。

ヤフーとZOZO

2019年にインターネット企業「ヤフー」が、ファッション通販サイト「ZOZOTOWN」を運営する「ZOZO」の株式の過半数を買収しました。

このM&Aは、ヤフーがZOZOのファッション分野での強みやデータ活用力を得ることで自社サービスの強化を図るという目的で行われましたが、実際にはZOZOの創業者である前澤友作氏が退任したことでZOZOのブランド力や革新性が低下し、ヤフーもZOZOの経営に大きな影響力を持てない状況になりました。

ベンチャー企業のM&Aの買収額の決め方

ベンチャー企業のM&Aでは、買収額(バリュエーション)を決めることが重要な課題です。

しかし、ベンチャー企業は上場していないため、市場価格が存在せず、また将来性や成長性など主観的な要素が大きく影響するため、買収額を決めることは容易ではありません。

一般的には、以下のような方法があります。

市場比較法:

同業他社や類似企業の株価や買収額などを参考にして、自社の株式や事業の価値を推定する方法です。

市場での需要や供給に応じて柔軟に買収額を決めることができますが、比較対象が見つからない場合や、市場環境が変化する場合は適用が難しい場合があります。

収益割当法:

自社の将来の収益やキャッシュフローを予測して、現在価値に割り戻すことで、自社の株式や事業の価値を推定する方法です。

自社の成長性や収益性を反映させることができますが、将来の収益やキャッシュフローを正確に予測することが難しい場合や、割引率などの仮定によって買収額が大きく変わる場合があります。

資産割当法:

自社の資産や負債を時価に評価して、純資産額を算出することで、自社の株式や事業の価値を推定する方法です。客観的な評価基準に基づくことができますが、資産の時価評価には主観性が入る場合や、将来の収益力や成長力を考慮しない場合があります。

ベンチャー企業のM&Aでは、市場比較法や収益割当法がよく用いられます。

しかし、これらの方法は一概に適用できるものではなく、自社の特徴や市場環境、交渉力などによって買収額は変動します。

したがって、ベンチャー企業は自社の評価に見合った買収額を得るためには、複数の方法を併用したり、第三者機関に評価を依頼したりすることも必要です。

まとめ

ベンチャー企業のM&Aは、資金調達や事業拡大、イグジットなどのメリットがありますが、経営権の喪失や文化の衝突、買収額の不満などのデメリットもあります。

ベンチャー企業がM&Aを成功させるためには、自社の目的や価値観に合った相手を選び、買収額を適切に決め、買収後の統合や協力をスムーズに行うことが必要です。

ベンチャー企業のM&Aは、市場動向や事例を参考にしながら、自社にとって最適な戦略を考えることが重要です。