商社M&Aの動向とその影響:業界再編がもたらす変化

商社とは、さまざまな商品の流通をサポートする企業であり、トレーディングと事業投資が主なビジネスモデルです。商社は総合商社と専門商社に分けられ、総合商社は多種多様な事業・製品を扱うのに対し、専門商社は特定の製品に特化しています。

 

近年、商社業界ではM&Aが活発に行われており、事業拡大や新規顧客獲得、バリューチェーン構築などが主な目的となっています。M&Aにより、商社は自社の強みを生かした付加価値を提供し、市場における競争力を高めることができます。

 

本記事では、商社業界のM&A動向について、最新事例の紹介やM&Aのメリット・デメリット、今後の展望などを解説します。

 

 商社業界のM&A動向

商社業界の最近のM&A動向としては、以下のような特徴があります。

 

– 事業拡大や新規顧客獲得を目的とするM&Aが活発

– バリューチェーン構築を目的とする事業投資も多い

– 資源価格の変動に対応するために非資源分野への投資を強化

– DXや事業経営への移行など新たな取り組みも見られる

 

 事業拡大や新規顧客獲得を目的とするM&Aが活発

商社は自社で製品を製造しないので、M&Aにより常に事業拡大や新規顧客獲得を目指すことが重要です。特に大手総合商社では、さまざまな分野でM&Aを繰り返しており、経済の動向を的確に捉えて適切な事業ポートフォリオを維持するために、M&Aが積極的に活用されています。

 

例えば、2022年4月にはアルコニックス株式会社が金属加工分野において高い技術力と顧客評価を有する株式会社ソーデナガノの株式を取得し、連結子会社化することを決議しました。ソーデナガノが今後高い成長が見込まれる電気自動車の最重要部品・リチウムイオン電池を製造していること、アルコニックスグループ内の不得手分野の補完ができることなどが、このM&Aの決め手であっ

 バリューチェーン構築を目的とする事業投資も多い

商社はトレーディングだけではなく、事業投資も重要なビジネスモデルです。事業投資により、商社は自社の強みを生かした付加価値を提供し、市場における競争力を高めることができます。

 

事業投資の目的の一つとして、バリューチェーン構築があります。バリューチェーンとは、原材料などの調達から製造、出荷物流、販売、アフターサービスまでの一連の事業活動をいうもので、商社はこのバリューチェーンに沿って自社の役割を拡大していくことで利益を最大化します。

 

例えば、三菱商事株式会社は2022年3月に米国の電気自動車メーカーであるルシッド・モーターズに出資しました。この出資により、三菱商事はルシッド・モーターズの日本やアジアでの販売代理店となり、電気自動車市場への参入を図りました。また、ルシッド・モーターズは三菱商事が持つバッテリー関連事業や再生可能エネルギー事業などとも連携することで、バリューチェーン全体の強化を目指しました。

 

また、伊藤忠商事株式会社は2021年12月にインドネシアの石油化学企業であるチャンドラ・アスリ・ペトロケミカル(CAP)に出資しました。この出資により、伊藤忠商事はCAPが計画するインドネシア最大級の石油化学コンプレックス(CPC)プロジェクトに参画しました。CPCプロジェクトはインドネシア国内で原料から製品まで一貫して生産することで、インドネシアの石油化学産業の自給率向上や輸入依存度低減に貢献するものです。伊藤忠商事はこのプロジェクトにおいて、原料調達から製品販売まで幅広く関与することで、バリューチェーン構築に寄与しました。

 

商社業界のM&Aのメリット

商社業界ではM&Aが活発に行われていますが、その背景にはM&Aが持つさまざまなメリットがあります。ここでは、商社業界のM&Aがもたらすメリットについて解説します。

 

事業拡大や新規顧客獲得

商社は自社で製品を製造しないため、M&Aによって新たな製品やサービスを取り扱うことができます。これによって自社の商品の提供範囲や影響力を拡大することができます。

 

商社M&Aによるリスクや課題

商社業界におけるM&Aは、多くのメリットをもたらしますが、一方でリスクや課題も存在します。M&Aは、単に企業や事業を買収するだけではなく、買収後の統合や運営が重要なポイントとなります。M&Aによって得られる効果は、買収後のフォローアップ次第で大きく変わります。

 

M&Aによるリスクや課題としては、以下のようなものが挙げられます。

 

– 買収価格の高騰

– 経営方針や企業文化の相違

– 人材流出やモチベーション低下

– 規制や反トラスト法の対象となる可能性

 

①買収価格の高騰

商社業界では、M&Aの需要が高まっており、優良な企業や事業を買収するためには高い買収価格を提示しなければなりません。特に、海外市場では、現地企業や他国の商社との競争が激しく、買収価格が高騰する傾向があります。買収価格が高すぎると、買収後に十分な利益を得られないリスクが高まります。

 

②経営方針や企業文化の相違

M&Aでは、異なる経営方針や企業文化を持つ企業同士が統合されます。そのため、買収後に経営方針や企業文化のすり合わせが必要となります。しかし、このプロセスは容易ではありません。経営方針や企業文化の相違は、意思決定の遅延やコミュニケーションの障害、内部対立などを引き起こす可能性があります。これらは、M&Aによるシナジー効果を阻害する要因となります。

 

③人材流出やモチベーション低下

M&Aでは、買収された側の従業員は不安や不満を抱くことがあります。彼らは自分たちの立場や将来性が不明確になったと感じたり、買収した側の従業員と比較されたりすることでストレスを感じることがあります。その結果、人材流出やモチベーション低下が起こる可能性があります。人材は企業の最大の資産であり、人材流出やモチベーション低下は企業の競争力を低下させる要因となります。

 

商社のM&Aによる成功事例

商社業界におけるM&Aは、リスクや課題もありますが、一方で成功事例も多数存在します。M&Aによって、事業の拡大や多角化、競争力の強化、コスト削減などのメリットを享受できる場合があります。ここでは、商社業界におけるM&Aの成功事例をいくつか紹介します。

 

三菱商事によるユニバーサルエンターテインメントの株式取得

三菱商事は、2021年2月に、パチンコ機やカジノ機器などを製造・販売するユニバーサルエンターテインメントの株式を取得しました。取得額は約1,000億円で、取得比率は34.5%です。

 

三菱商事は、ユニバーサルエンターテインメントとのM&Aによって、以下の目的を達成しました。

 

– カジノ事業への参入

– デジタル技術やコンテンツの活用

– アジア市場への展開

 

三菱商事は、カジノ事業に強い関心を持っており、日本国内でのカジノ法案成立に向けて準備を進めていました。しかし、カジノ法案はコロナ禍や汚職事件などで遅延しており、三菱商事は海外市場への参入を模索していました。その中で、ユニバーサルエンターテインメントがフィリピンで運営するカジノリゾート「オカダマニラ」に注目しました。オカダマニラは、フィリピン最大級のカジノリゾートであり、アジア市場で高い人気を誇っています。三菱商事は、ユニバーサルエンターテインメントとのM&Aによって、オカダマニラの経営権を取得しました。これにより、三菱商事はカジノ事業への参入を果たしました。

 

また、三菱商事は、ユニバーサルエンターテインメントが持つデジタル技術やコンテンツを活用することで、自社の事業領域を拡大することも目指しました。ユニバーサルエンターテインメントは、パチンコ機やカジノ機器だけでなく、オンラインゲームや映像制作なども手掛けており、多彩なデジタル技術やコンテンツを保有しています。三菱商事は、これらのデジタル技術やコンテンツを自社の既存事業や新規事業に応用することで、付加価値の高いサービスやソリューションを提供することができると考えました。

 

商社のM&Aによる失敗事例

商社業界におけるM&Aは、成功事例もありますが、失敗事例も少なくありません。M&Aは、高額な投資を伴うだけでなく、買収先の経営状況やリスク、文化や価値観の違いなど、様々な課題を抱える可能性があります。ここでは、商社業界におけるM&Aの失敗事例をいくつか紹介します。

 

丸紅によるオーストラリア石炭鉱山の買収

総合商社として有名な丸紅は、M&Aを積極的に進めていましたが、2012年に行った買収はその中でも巨額なものでした。オーストラリアの石炭鉱山会社であるアクィラ・リソーシズを約4,000億円で買収しました。

 

丸紅は、アクィラ・リソーシズが持つ豊富な石炭資源やインフラ開発プロジェクトに期待を寄せていましたが、その後の石炭価格の暴落やプロジェクトの遅延などで、想定外の損失を被りました。2016年には約1,300億円の減損損失を計上しました。

 

このM&Aでは、 買収先の事業計画や市場動向に対する過度な楽観 が原因とされています。また、買収先とのコミュニケーション不足や経営方針の相違も問題となりました。

 

伊藤忠商事による米国ファッションブランドの買収

伊藤忠商事は、2010年に米国のファッションブランドであるジャンボー・コレクティブを約100億円で買収しました。[^3^][4]ジャンボー・コレクティブは、セレブリティやハイエンド層をターゲットとしたカジュアルウェアやアクセサリーを展開しており、伊藤忠商事はそのブランド力や海外展開力に注目していました。

 

しかし、買収後にジャンボー・コレクティブの業績は低迷しました。消費者の嗜好の変化や競合他社との差別化が図れなかったことが原因とされています。2015年には約30億円の減損損失を計上しました。

 

このM&Aでは、 買収先の市場分析やブランド戦略が不十分 だったことが指摘されています。また、買収先との経営統合や人材育成もうまく進められなかったことも問題となりました。

 

まとめ

商社業界におけるM&Aは、事業の拡大や多角化、競争力の強化、コスト削減などのメリットを享受できる可能性がありますが、一方でリスクや課題も多くあります。M&Aによって成功した事例もあれば、失敗した事例もあります。M&Aを成功させるためには、買収先の企業価値や市場動向を正しく評価し、買収後の経営統合やブランド戦略を効果的に進めることが重要です。また、買収先とのコミュニケーションや人材育成にも配慮することが必要です。

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