農業法人におけるM&Aの最新動向と成功のポイント

畑にて男女が談笑している様子

農業は日本の基幹産業の一つですが、農業従事者の減少や高齢化、農地の遊休化など、さまざまな課題に直面しています。
このような状況の中で、農業法人におけるM&A(合併・買収)が注目されています。
M&Aは、農業法人同士や一般企業との統合によって、事業規模の拡大や経営効率化、技術・ノウハウの獲得など、多くのメリットをもたらす可能性があります。
しかし、農業法人のM&Aには、農地法や税制などの制約やリスクも伴います。本記事では、農業法人におけるM&Aの最新動向と成功のポイントについて解説します。

農業法人におけるM&Aの動向

農業法人におけるM&Aは、他業種に比べるとまだ活発とは言えませんが、近年は増加傾向にあります。
特に2009年の農地法改正以降、一般企業が農地を借りて農業を営む「リース法人」が自由化されたことで、農業への新規参入や買収が進んでいます。
また2016年の農地法改正では、「農地所有適格法人」という要件が緩和されたことで、既存の農業法人が他社と統合する際もハードルが下がりました。
農業法人におけるM&Aは、主に以下の3つのパターンがあります。

– 同業種間でのM&A:同じ種類や規模の農業法人が統合することで、事業規模や競争力を高める。

– 異業種間でのM&A:一般企業が農業法人を買収することで、新規事業や多角化を図る。

– 事業承継型M&A:後継者不足や経営難などで廃業・倒産する危機にある農業法人を他社が引き継ぐ

農業法人におけるM&Aの目的とメリット

農業法人におけるM&Aは、売り手側と買い手側それぞれに異なる目的やメリットがあります。
以下では、代表的なものを紹介します。

売り手側(譲渡者)の目的とメリット

– 廃業・倒産の回避:農業従事者の減少や高齢化、農地の遊休化、生産コストの高騰などで経営が苦しくなった場合、M&Aによって他社に事業を引き継いでもらうことで、廃業や倒産を回避できる。

– 事業承継の確保:後継者不足や後継者の農業離れが問題となっている場合、M&Aによって他社に事業を引き継いでもらうことで、事業の存続や発展を図ることができる。

– 資金調達:M&Aによって株式や事業を売却することで、資金を得ることができる。
資金は事業の拡大や改善、借入金の返済などに活用できる。

– 経営効率化:M&Aによって他社と統合することで、経営資源やノウハウを共有し、経営効率を高めることができる。
また、規模の拡大によって仕入れや販売などの交渉力も強化できる。

買い手側(譲受者)の目的とメリット

– 農業への新規参入:農業は食料自給率や食品安全性などの観点から重要な産業であり、一般企業は農業への新規参入によって社会貢献やブランドイメージの向上を図ることができる。
また、農業は他業種と比べて競争が激しくなく、成長余地もあるため、新たな収益源として期待できる。

– 事業規模の拡大:既存の農業法人が同業種の農業法人を買収することで、事業規模や競争力を高めることができる。
また、異なる地域や品目の農業法人を買収することで、地域や品目の多様化を図り、リスク分散や付加価値向上につなげることができる。

– 農地や設備の獲得:M&Aによって農地や設備を獲得することで、一から設備投資する必要がなくなり、コストや時間を節約することができる。
また、農地は需要が高く供給が少ない貴重な資産であり、将来的に価値が上昇する可能性もある。

– 技術・ノウハウの獲得:M&Aによって技術やノウハウを持つ農業法人を買収することで、その技術・ノウハウを自社に取り入れることができる。
特に農業は気象や土壌などの自然条件に左右されやすく、経験や知識が重要な要素であるため、他社に先んじて高品質や高収量の農産物を生産することができる。

– シナジー効果:M&Aによって自社の強みと相補的な強みを持つ農業法人を買収することで、シナジー効果を発揮することができる。
例えば、生産から加工・販売まで一貫して行えるようになったり、自社の製品と相性の良い農産物を提供できるようになったりすることができる。

農業法人におけるM&Aの手法と注意点

農業法人におけるM&Aは、一般的なM&Aと同様に、株式譲渡や事業譲渡などの手法があります。
しかし、農業法人のM&Aには、農地法や税制などの制約やリスクも伴います。
以下では、農業法人におけるM&Aの主な手法と注意点について解説します。

株式譲渡

株式譲渡とは、売り手が買い手に対して自社の株式を譲渡することで、買い手が売り手の会社を支配下に置くことです。
株式譲渡は、売り手が会社をそのまま引き渡すことができるため、手続きが比較的簡単です。
また、買い手は売り手の会社の全ての資産や債務を引き継ぐことになるため、事業継続性が高くなります。

しかし、株式譲渡では、買い手は売り手の会社の全ての資産や債務を引き継ぐことになるため、隠れたリスクや不良資産も引き継ぐ可能性があります。
また、農業法人の場合は、「農地所有適格法人」という要件を満たす必要があります。
この要件を満たさない場合は、農地を所有することができず、営むことのできる事業が制限されます。

「農地所有適格法人」という要件は以下の通りです。

– 非公開の(株式に譲渡制限がある)株式会社、農事組合法人、持分会社(合名会社・合資会社・合同会社)であること

– 売上高の過半を農業(農作業や生産物の加工・販売、必要な資材の製造など)が占めること

– 総議決権の過半数を農業関係者(法人が行う農業に常時従事する個人、農地の権利を提供した個人、基幹的な農作業を法人に委託している個人、農地中間管理機構・農地利用集積円滑化団体を通して法人に農地を貸し付けている

– 役員構成:農業に常時従事する株主・組合員・社員(持分会社の出資者)が、役員(取締役・理事・業務執行社員)の過半数を占めること

– 役員の農作業従事:農業に常時従事する役員または重要な使用人のうち少なくとも1人が、定められた日数以上農作業に従事すること

事業譲渡

事業譲渡とは、売り手が買い手に対して自社の一部または全部の事業を譲渡することです。
事業譲渡は、売り手が必要ない資産や債務を買い手に引き渡さないことができるため、負債やリスクを切り離すことができます。
また、買い手は必要な資産や債務だけを引き継ぐことができるため、コストや時間を節約することができます。

しかし、事業譲渡では、売り手が会社そのものを引き渡さないため、買い手は売り手の会社の経営権を得ることができません。
また、農業法人の場合は、「農地所有適格法人」という要件を満たす必要があります。
この要件を満たさない場合は、農地を所有することができず、営むことのできる事業が制限されます。

「農地所有適格法人」という要件は前述した通りです。

農業法人におけるM&Aの成功事例

農業法人におけるM&Aはまだ少ないですが、近年では成功した事例も出てきています。
以下では、代表的な事例を紹介します。

イオンアグリ株式会社

イオンアグリ株式会社は、イオングループの農業法人です。
2011年に設立された同社は、2013年から2018年までに5社の農業法人を買収しました。
買収した農業法人は、北海道から九州まで全国各地にあり、野菜や果物などさまざまな品目を生産しています。
イオンアグリは、買収した農業法人の技術やノウハウを活かしつつ、自社ブランドや安全性の高い農産物の開発に力を入れています。
また、イオングループの流通網や店舗を活用して、消費者への直接販売も行っています。

株式会社ハウス食品

株式会社ハウス食品は、カレーやスパイスなどの食品メーカーです。
同社は2017年に北海道の農業法人「株式会社北海道ファーム」を買収しました。
北海道ファームは、トマトやキャベツなどの野菜や花卉を生産しており、ハウス食品は、北海道ファームの経営には基本的に介入せず、自主性を尊重しつつ、技術や品質の向上に協力しています。
また、北海道ファームの農産物をハウス食品の製品に使用することで、消費者に安心・安全な食品を提供することを目指しています。

株式会社アグリック

株式会社アグリックは、農業機械や農業資材の販売・レンタルを行う会社です。
同社は2019年に岐阜県の農業法人「株式会社アグリファーム」を買収しました。
アグリファームは、トマトやキュウリなどの野菜やイチゴなどの果物を生産しており、アグリックの農業機械や資材を利用していました。
アグリックは、アグリファームの生産技術やノウハウを獲得することで、自社の農業機械や資材の開発や改善に役立てることを目的として買収しました。
また、アグリファームの農産物を自社のオンラインショップで販売することで、消費者との直接的なコミュニケーションも図っています。

農業法人におけるM&Aの注意点

農業法人におけるM&Aは、多くのメリットがありますが、注意しなければならない点もあります。
以下では、代表的な注意点を紹介します。

– 農地法や税制などの制約:農業法人がM&Aを行う場合は、「農地所有適格法人」という要件を満たす必要があります。
この要件を満たさない場合は、農地を所有することができず、営むことのできる事業が制限されます。
また、M&Aによって発生する譲渡所得や譲渡損失に対する税制も他業種と異なる場合があります。
M&Aを行う前には、専門家に相談して制約やリスクを把握することが重要です。

– 農業特有のリスク:農業は気象や土壌などの自然条件に左右されやすく、収穫量や品質が安定しない場合があります。
また、農作物は生鮮品であるため、流通や販売にも時間的な制約があります。
さらに、農業は季節性が強く、一年中安定した収入を得ることが難しい場合もあります。
これらのリスクを軽減するためには、事前調査や契約内容の確認などが必要です。

まとめ

農業法人におけるM&Aは、農業の課題を解決し、事業の拡大や多角化を図る有効な手段です。
しかし、農業法人のM&Aには、農地法や税制などの制約やリスクも伴います。
M&Aを成功させるためには、事前調査や専門家の相談、人材確保・育成などが重要です。
農業法人におけるM&Aはまだ少ないですが、今後はさらに増加する可能性があります。
農業法人のM&Aに関心のある方は、本記事を参考にしてみてください。 

 

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