M&Aと企業法の基礎
M&Aとは、企業の合併や買収などのことで、経営戦略や事業再編の手段として利用されます。
M&Aを実施する際には、会社法や金融商品取引法、独占禁止法など、さまざまな法律に抵触しないか注意が必要です。
また、M&Aによって労働契約や許認可事業なども影響を受ける可能性があります。
本記事では、M&Aにおける企業法の基礎的な知識を解説します。具体的には、
M&Aの種類と特徴
M&Aに関わる主要な法律
M&Aで注意すべき法務リスク
の3点について説明します。
M&Aの種類と特徴
M&Aには大きく分けて2種類あります。
株式取得型:対象会社の株式を買収することで支配権を得る方法
事業譲渡型:対象会社の事業や資産を譲り受ける方法
株式取得型では、対象会社がそのまま存続し、買収者が株主として経営権を行使します。
この場合、対象会社の債務や契約もそのまま引き継ぐことになります。
また、株式取得型では会社法や金融商品取引法等が適用されます。
事業譲渡型では、対象会社から一部または全部の事業や資産を切り離して買収者が引き継ぎます。
この場合、対象会社は解散するか他の事業を行うことになります。また、事業譲渡型では民法や商法等が適用されます。
M&Aに関わる主要な法律
M&Aでは多くの利害関係者が存在し、様々な規制や手続きが必要です。
以下では代表的なものを挙げます。
会社法
会社法は株式会社等の設立・運営・解散等に関する基本的なルールを定めた法律です。M&Aでは、
株式譲渡契約
株主総会決議
株券発行・交付
有限責任事業組合契約(LLP)
投資事業有限責任組合契約(LPS)
会社分割
等が該当します。
独占禁止法
独占禁止法は、私的独占や不公正な取引方法、企業結合などの競争制限行為を規制する法律です。M&Aでは、
企業結合の届出
企業結合の審査
企業結合の是正措置
等が該当します。
企業結合とは、株式会社や有限責任事業組合(LLP)などの事業者が、株式取得や事業譲渡などによって支配関係や影響力を強めることをいいます。
M&Aは一般的に企業結合にあたります。
企業結合は、市場での競争を阻害し、消費者利益や公共利益を損なうおそれがあるため、一定の基準に達する場合には公正取引委員会(以下、「公取委」という)に届出する必要があります。届出基準は、
買収者側の国内売上高が200億円以上
被買収者側の国内売上高が50億円以上
であり、これらを超える場合にはM&A実施前に届出しなければなりません。
公取委は届出された企業結合について審査し、その内容が競争制限行為として問題があるかどうか判断します。
審査期間は原則30日以内ですが、問題があると判断された場合には追加審査期間(最長120日)も設けられます。
もし公取委が企業結合が競争制限行為であると判断した場合には、是正措置命令を発することができます。是正措置命令とは、
株式譲渡
事業譲渡
役員交代
経営方針変更
等の措置を命じるものであり、これらを実施しなければ罰金や刑事罰も科される可能性があります 。
したがってM&Aでは、事前に競争法上のリスク分析を行い、必要な届出手続きや対策を講じることが重要です。
労働契約承継法
労働契約承継法は、会社分割等に伴う労働契約の承継等に関する特例的なルールを定めた法律です。M&Aでは、
労働契約承継通知書
労働条件変更同意書
労働協約・就業規則・退職金規定の扱い
等が該当します。
労働契約承継通知書とは、会社分割や事業譲渡などで労働契約が承継される場合に、譲渡前の事業者(旧事業者)と譲渡後の事業者(新事業者)が共同で、労働者に対して発行する文書です。この文書には、
承継日
新事業者の名称・所在地・代表者名
新事業者で適用される労働条件
旧事業者から新事業者への移行時期や方法
等が記載されます。この文書は、原則として承継日の2週間前までに発行しなければなりません。
労働条件変更同意書とは、新事業者で適用される労働条件が旧事業者で適用されていたものよりも不利益な場合に、労働者からその変更に同意を得るための文書です。この文書は、
変更前後の具体的な労働条件
変更理由
変更日
等が記載されます。この文書は、原則として個別に作成し、各労働者から署名捺印を得なければなりません。
労働協約・就業規則・退職金規定の扱いとは、新旧事業者間でこれらの規程や制度をどう取り決めるかということです。一般的には、
労使協定や就業規則は新旧両方で適用することが多い。
退職金制度は旧制度を引き継ぐか新制度を導入するか検討する必要がある。
退職金積立金や年金基金等は負債移転契約や信託移転契約等で移管する必要がある。
等が考えられます。これらの取り決めは、M&A交渉時や最終契約時に明確化しておく必要があります。
まとめ
以上がM&Aに関わる主要な法律の一部です。
他にも税務や許認可等様々な法律上の問題点があります。
M&Aではこれらの法律を把握し、適切な手続きや対策を行うことが求められます。